トップ対談

くすりの適正使用協議会のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画です。

Vol.15 マルホ株式会社 代表取締役社長 高木 幸一氏

RAD-AR News Vol.27-No.3(2017.2/通算115号)掲載

くすりの適正使用のあるべき姿について、トップの方との話し合いを通して考える対談企画。 

皮膚科領域に特化したスペシャリティ ファーマならではの、塗り薬の適正使用の取り組みなどについて詳しくお話を伺いました。

 

薬全般に対する理解をベースに塗り薬の知識をプラス。
それが、マルホが目指す適正使用のあり方です。

皮膚科学関連医薬品のブティック・カンパニー

-黒川理事長、まずはマルホ株式会社の印象についてお聞かせください。

黒川

 大阪で100年以上の歴史を誇り、皮膚科領域で独自の技術を磨き上げて今日に至っていることに敬意を表します。

 御社のWebサイトを拝見しましたが、会社の情報開示の徹底ぶりには驚かされました。これだけ徹底している会社はなかなかないと思います。薬の適正使用についても、疾病ごとにわかれ、それこそ患者さんのかゆいところに手の届く説明がなされ極めて充実しています。

高木

kanshajo

 当社は株式を上場していないため、会社情報の開示義務がありません。ですから気がつけば外に対して何も発信していない、という状況に陥りがちです。ここ数年は意識してディスクロージャーを徹底しています。

 マルホは1915年の創業で100年を越える歴史があります。第2次世界大戦中の企業整備令によって合併・消滅した時期もあり、考えようによっては戦後の会社とも言えるかもしれませんが、創業の精神は途切れず引き継がれています。

 当社は、経営理念と長期ビジョンの2つの軸で経営を推進しています。経営理念は変えないもの、永遠に持ち続けるものという位置づけであるのに対し、長期ビジョンは、時代や社会の要求に合わせ10年ほどで更新しています。皮膚科学に特化した会社であることを内外に宣言したのは2002年の長期ビジョン策定時です。

黒川

 当時の会社を巡る状況はどのようなものだったのですか。

高木

 ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)がスタートした1990年以降、各社のグローバル化が本格化していきました。当社のような中堅企業の存在価値が揺らぐ中で世の中に貢献していくためには、選択と集中が必要です。そこで、皮膚科学関連医薬品のブティック・カンパニーとして皮膚科市場に特化することを示しました。幸い、我々の選択は医療機関や同業他社さんにも受け入れられ、特長あるスペシャリティ・ファーマとして認識していただけるようになりました。

 次の2011年の長期ビジョンでは、英語で「Excellence in Dermatology」と示し、皮膚科学において卓越した存在になることを掲げました。お陰様で売上も順調に伸び、2016年9月期は約700億円の売上を達成しました。その構成は私から見てもかなり偏っています。医療用が99%、皮膚疾患に使用する薬が89%、軟膏、クリーム、ローションなどの塗り薬は売上の78%。言ってみれば皮膚疾患の塗り薬オンリーの会社です。

-医療専門誌の調査では、皮膚科医師から信頼に値するメーカーとして多くの支持を集めています。その秘訣は何でしょうか。

高木

 この会社がずっと大事にしているものの一つがMRです。1915年の創業時からMRを採用しています。最も早期に医療機関への情報提供を始めたグループのうちの一社であり、それ以来MRによる情報提供をずっと重視してきました。MRの人数はそれほど多くはありませんが、皮膚科に関しては大学病院からクリニックまで、ほぼ100%をカバーして定期訪問しています。売上よりも、患者さんや医療者に笑顔になっていただくために自分たちに何ができるかを大切にする姿勢で臨んでいます。その姿勢を評価していただいているのではないでしょうか。

健全な消費者が健全な製薬企業を育てる時代に

-医薬品医療機器等法の中で、新たに国民の責務として薬の適正使用が位置づけられたことをどうお考えですか。

高木

 まさに時来たりという印象でした。これは一般論ですが、「健全な消費者が健全な企業を育てる」という言葉があります。一方で製薬業界、特に医療用医薬品の理解には高度な知識が要るという認識があることから、一般の方は一方的に保護されるもので、役割を担うのではないという意識がどこかにありました。今回の改正が、「健全な消費者が健全な製薬企業を育成する」その第一歩になるのではないかと思っています。一方で、家庭の状況をみると、必ずしも適正使用がなされていない実態がありますから、この実現にはまだまだやるべきことがたくさんありそうですね。

黒川

 協議会としても、この法律は画期的なものと捉えています。製薬企業、医療者に求められていた適正使用が、その先の使用者である患者さんまで初めて視野に入れられたわけです。ただ、その時私たちが直面したのは、国民の皆様にとって適切で信頼できる情報が身近にない、そういった状況に何十年も置かれていたという事実です。いきなり法律の条文に入れられても次の日から何かが変わるものではない。これまでの努力に加えて、積極的に患者さんの関心に応えるためにどうするか、あるいは頭でわかっていても、それが日常の薬の使い方や服薬行動に反映されないことをどう克服していくのか、我々も努力しなければいけないというメッセージをもらったのではないかと思います。

高木

 昔は、医療は医療者が行うもので、製薬企業はその陰に隠れて甘えていました。ところが実際は、医療の最後の局面で薬を服用するのは患者さんです。その部分がどうなっているのかわからないようでは非常に不安ですし、ある意味で患者さんは医療の最後の部分を担当しているパートナーなのです。

 製薬企業もこの機会に患者さんへの啓発を医療者と一緒に、ある部分では主体的に進めていけというメッセージだと思います。ただし、一(いち)製薬企業が主体になって啓発していくことは難しいところがあるのも事実。協議会の知恵もぜひいただきたいところです。

黒川

 私どもの存在意義もそこにあると考えています。およそ医薬品に共通する部分をしっかり基礎固めして、その上でそれぞれの製薬企業が製品に特化した話をしていくようにしたいですね。

英語版「くすりのしおり®」はおもてなしの欠かせないツールに

-協議会では、適正使用に関する情報提供は分かりやすくなければと考え、医療用医薬品に関する情報のフォーマットを整え、企業の協力を得ながら「くすりのしおり®」を作成しています。

高木

kanshajo

 統一されたフォーマットを作成されたのは、本当にありがたいですね。患者さんの利便性もものすごく高まったと思います。これも一社ではできないことで、非常にいい活動です。

 英語版に関しては、その必要性を認識するようになったのはここ1〜2年、大阪に多くの外国の方が訪れるようになってからです。もっと充実させていく必要がありますね。

黒川

kanshajo

 わが国も否応なく国際化の真っただ中にあります。今後、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、英語版くすりのしおり®は、外国のお客様におもてなしを提供する一つのインフラとして欠かせないものになってきていると思います。また、良い薬は世界から求められます。これまで培われた御社の素晴らしい皮膚科領域の技術も、海外の方々に広く認識されるべきであり、そのイントロダクションの一つになるかもしれません。

塗り薬ならではの適正使用の難しさ

-マルホで進めている薬の適正使用の取り組みについてご紹介ください。

高木

 皮膚科の塗り薬の用法・用量には、他の経口剤にはない独自の問題があります。一つは、経口剤は1回1錠、1日3回服用というように明確に記されていますが、塗り薬の用法・用量は、たとえば「1日1から数回患部に適量を塗布もしくは塗擦」と書いてあるわけです。患部とはどこまでの部分をさすのか、数回とは何回くらいか、そして適量とはどれくらいの分量のことをいうのか。医療者が患者さんの状況に合わせて具体的に指示するわけですが、なかなか患者さんにはイメージしにくいものであると感じます。

 もう一つの問題として、塗り薬は軟膏、クリーム、ローション、ゲルなど剤形のバリエーションに富んでいます。ベースとなる基剤成分もアルコールや水、油分が入っているものなど様々です。同じブランドでも違う剤形のものを使い回すと事故につながるリスクがあります。

  医療者の皆様が現場で適正使用の指導に苦労されていることを知り、当社も何とかサポートしたいという思いから、様々な働きかけを行っています。「くすりのしおり®」の作成はもちろん、会社のWebサイトで患者さん向けの塗り方の動画を公開しているほか、説明用の素材を医療機関にも提供しています。さらに、医療者を対象に塗り方のセミナーも開催しています。また、患者さん向けに薬の塗り方を紹介する冊子も各種用意しています。医療機関の先生方の説明を簡略化し、患者さんに的確に指導いただくための補助ツールです。

 最近、医療者と患者さんの使用量に対するイメージを共有するために、成人の人差し指の先から第1関節の長さまで出した量をFTU(Finger Tip Unit)と具体的な単位で呼ぶ動きも出てきました。一部の先生が提唱したものですが、当社としても適正使用に資するものとして広く紹介し後押しをしています。医療者と患者さんのイメージが共有され、適切な量が使われ、薬の効果が正しく発揮されれば、当社の薬に対する信頼にも繋がります。

黒川

 御社が進めている皮膚科領域に特化したスペシャライズな取り組みに対し、協議会では、そのベースになる部分、外用薬に限らず全ての薬で共通する内容について、しっかりと土台を下支えしていきたいと考えています。

高木

 日本の医療における外用剤の売り上げは1~2%。ですから、外用剤のために何か協議会で活動をというのは難しいと思っています。しかし、黒川理事長が言われた土台の部分、薬のリスクやベネフィットについての基本的な部分は、ぜひ学校教育で実施してほしいですし、協議会としてもサポートをお願いしたいところです。

 たとえば青春のシンボルである「ざ瘡」(ニキビ)。若いうちのざ瘡は誰もが経験することで、それ自体大きな問題ではないでしょう。しかし、青春時代を終えた人の顔にニキビ跡が残ってしまっていたらどうでしょう。皮膚疾患は外面に現れるものですから、生死にかかわらなくともQOLに大きな影響を与えるものが多くあります。こうした比較的軽度な疾患は、ちょっとした疾患の知識、ちょっとした適正使用の知識で簡単に解決することができます。薬に対する全般的な適正使用の知識の上に、塗り薬の知識をプラスするということです。

 日本はもともと教育レベルが高いですから、子どもの頃から公教育で基本的な知識を得て、製薬企業も正しい情報を公開すれば、1人ひとりが自らの力で必要な知識を調べ身につける力を得られるはずです。

黒川

 中学校、高等学校では学習指導要領に基づき、薬の教育が義務づけられています。協議会では、授業を行う保健体育などの先生方を対象に出前研修を実施しています。こちらもますます充実させてまいりますのでご期待いただきたいと思います。

-最後に協議会への期待などがありましたらお聞かせください。

高木

 皮膚科の先生方、患者さんと接する中で、できることは行ってきたつもりですが、適正使用が満足できる状況かと言えば、まだまだです。協議会の皆様からいろいろな知恵をいただき、当社としても協力させていただきながら、基本的な部分をしっかり固めていきたいと考えています。一企業にいれば情報も偏りますが、協議会に入会したことで、いい勉強の機会をいただいたと思っております。

黒川

 本日、高木社長のお話を伺い、あらためて御社が「Excellence in Dermatology」である理由の一端に触れた思いです。誠にありがとうございました。